農業における原価計算の特徴は、動植物の生物をその対象にしているという点です

例えば、成長過程の家畜や作物の評価とその記帳は農業簿記の大きな特徴です。

そして酪農畜産業の原材料は以下の通り定義されています。(下平洋太郎「実践家畜会計論」中央畜産会より)

1)原材料は購入飼料及び自給飼料、薬品、添加物(ビタミン剤等)、消耗品、その他
2)仕掛品は育成牛(成熟期になると固定資産となる)
3)製品は牛乳

この定義の沿えば、乳牛1頭当たりの原材料費の平均値の算出は容易です。
これに頭数のデータ、その他の期間費用の計算をすれば経営計画は完成します。

それでは戦略会計の要素法で、それぞれの費目を考えてみましょう

ここで2つの考え方が出てきます。 Qの定義を何にするかで他の要素の定義が変わってきます。

1.Qを牛乳生産量する場合

Pは牛乳の買取価格です。 これは決まっていて、競争や需給関係の影響も受けないため値崩れしません。
Vはゼロ。
Qは生産量  乳牛は牛乳になります。
ここでは飼料代はFになります。

理由は、飼料を増やしても乳牛の生産数量は比例して増加はしないからです。

この生産量をQとする考えは、戦略の自由度を窮屈にします。 MQを上げるにはQアップしか方法がなくなるからです。

2.Qを牛の頭数とする場合

Pは乳牛1日の生産高になります。 1日の産出量が100kgで納価が100円なら、Pは10,000円。
Vは1日の飼料代。(ビタミン添加物を含む)
Fは飼料代を除いた費用。

この方法の良い点は1のケースに比べてPが変動することです。 生産量を増やすことでPアップになります。
Pアップの方策への思考が働くことです。 

飼料の配合を工夫したり、乳牛の環境を配慮したり、データを駆使することへの思考が働きます。

また個体をQにすることで、規模の拡大の際のイメージもつかみやすいです。

まとめ

1.畜産農業は施設利用型産業です。
投下資本の回収およびその再投資と借り入れ金の返済期間が一致しているか? これが経営のキモとなります。
そして、単位労働力当たりの収益アップには農場の大規模化は避けられません。

その最適規模は規模に比例して増える単位あたりMQが最大化する地点です。
ΣMQとFとが一致するポイントがその最大化された規模(牛の頭数)といえます。

2.販売(買取り)価格は決まっていて、また生産量は全量買取りのため在庫もない。
つまり、PQ予測及びMQ予測は容易で極めて経営計画を立てやすいのが特徴です。

計画段階で期間費用と設備の減価償却期間を間違えなければ、Gを出すことは容易なのです。

ただし、設備の減価償却費は法定耐用年数で計算されたものはダメです。(ここ重要です)
管理会計(戦略会計)では、「その設備や機械は、実際何年間で更新しなければならないのか?陳腐化するのか?」から
計算されたものでなければならないのは言うまでもありません。

3.また畜産農家はΣMQが最大化するその牧場規模を目指しながらも、乳牛の生活環境や福利厚生にも目を向けてストレスの無い環境での牛乳の産出量の最大化をめざさなければなりません。

畜産(農業)は科学です。 
その個体からは、あらゆる情報がデータとして集められています。(運動量・発情期・搾乳量・血液検査など)
これほど科学経営との相性が良い業態を知りません。

科学を標榜する戦略会計との融合とその実践は、畜産農家への大きな福音となることは間違いありません。

北海道で定期開催!  オホーツク酪農MGのご案内はこちらです。

〈初出日 2018.1115〉