DC三部作

DC三部作

管理会計の手法のひとつで、事業部ごとの損益を計算するために「振替価格の算出」というものがあります

その目的は製造部門や事業部ごとの貢献利益(?)を把握したいという要望からでしょう

〈社内振替価格〉
社内の事業部門間の製品やサービスの取引価格(移転価格・社内取引価格ともいう)
適切な業績評価を行うためには、事業部をそれぞれ独立会社と見なし、製造部門から販売部門への製品の移動についても取引価格を設定し、各部門をプロフィットセンターとして利益を計算していくことが望ましい (グロービズのMBA経営辞書より引用)

「社内振替価格」「振替価格」「社内価格」それぞれ言い方はありますが、それは原価だけではありません

振替価格決定の方法は、何通りかありますが、多くの場合は製造原価に利益と
製造固定費部分を配賦・加算して社内振替価格を算出します

そして、ここで問題が3つ発生します

1つ目は、あたかも製造部門が利益を出すかのような錯覚が生まれることです

振替価格算出の際、製造原価に加算される利益はあくまでも「架空利益」であり
工場等の製造部門では1円のMQも発生しません

社内にあるのはFだけです

では一体MQはいつ発生するのか?

それはお客様の手元に商品・サービスが届いた(納品した)その瞬間に発生します

お店でいえば商品をレジで会計した時や、クレジットで売上を計上した時でしょう
あるいは商品を出荷したとき(売掛金の発生)などです

(それは会社によってさまざまな基準があると思います)
会社や店からお客のもとに商品・サービスが移った瞬間であり、そうで無い場合は入金があってもそれは前受金であり売上計上はされません(MQは発生しません)

社内や店内を製品が移動するだけでは、MQは1円も発生しないのです

「MQが発生するフロント(最前線)」を見極めて、そこに全社員が意識して注視しなければなりませんし、自社の経営資源を注力するべきです

2つ目は振替価格と外注価格との逆転現象による外注化や機会損失の発生です

つまり自社製品が(見かけで)他社製品より高くなり、他社から仕入れるほうが安くなると錯覚してしまうケースです
またこの振替価格を基準に判断して、自社で作れるのに外注してしまうケースもありえるでしょう

さらには営業部門が正確な「原価」ではない振替価格を正直にとらえて、その振替価格以下での受注は赤字であると判断して受注を断るという本末転倒の事態をも招きかねません

そして最後は配賦の問題です

管理会計では事業部ごとのGを算出したい誘惑に負けて、「禁じ手」である本部Fの配賦をしてしまうことです

MQを直接は産み出さない間接部門(本社部門経費など)はそこにかかるFはそっくり
そのまま赤字となるので良い気はしません

そこで本部のFを事業部や営業所に配賦して、そこのGを計算しようとしがちなのです

支店や営業所といった、ある程度独立性の高いFを計算できるならそれもありですが、
それでもMQ算出の根拠となるのは振替価格ではなく、あくまで製造原価(それもDCで)や仕入れ価格であるべきでしょう
(第一誰がそれをやるのか、その手間と時間を考えるだけでそれはNGです)

誤った感覚で「利益として意識する」ことは非常に危険です

われわれのような小規模企業にとっては(つまりほとんどの企業にとって)振替価格を
計算し、部門ごとの利益を算出するという行為は、百害あって一利も無いと云えるのです

〈初出日 2015.1228〉